45 キリスト教会内のゲルマン的なるものとユダヤ的なるものとの戦い

キリスト教諸国民のなかで、ユダヤ的なるものとの、もっとも激しく徹底的な戦いが行なわれた国は、ドイツ(ゲルマンの本流)であるようだ。その先駆は、修道士マイスター・エックハルト(一二六○ごろ一三二七年、キリスト教会内のドイッ神秘主義派の代表的神学者)であろう。エックハルトは「屈従教理と奴隷根性との代わりに、
 

聖霊と意思との自由の信条を説いた」といわれる。そして、一三二七年、ローマ法王庁のエックハルトに対する宗教審問が行なわれる直前に彼は死んだ(毒殺の疑いもある)が、その死から二百年後にルーテルが宗教改革の火蓋を切る(一五一七年)や、ただちにユダヤ人が新しいプロテスタントの旗の下に群をなして集まってきた。ルーテルは『イエス,キリストはユダヤ人として生まれた』という著作を刊行し、心からユダヤ人を歓迎したからだ。しかし、やがてルーテルは、彼の法王庁との決裂を激励したユダヤ人たちの真意が、ルーテルの支持者、信徒たちをユダヤ化することにあると知って、『タルムード』を研究し始め、そして『ユダヤ人と彼らの嘘』という著作を出版した。

ルーテルは、死の直前の説教のなかで、「ユダヤ人を赦免してはならない、彼らを追放せよ。彼らは我々の公敵であり、絶え間なく主イエス・キリストを冒涜している。彼らは可能ならば喜ぴ勇んで我々すべてを殺すであろう。実際、彼らの多く、とくにユダヤ人の医師や外科医は、キリスト教徒を殺害している。善き愛国者として、私は諸君に最後の瞬間まで彼らの罪悪に加担することのないよう警告する」としている。

彼の死の直前の著作『悪魔から樹立されたるローマの法王権に対する抗議』(一五四五年)のなかでは、「自由、キリスト教的、ドイツ的−−これらの三つの語は、法王およぴローマの宮廷にとっては、単なる毒、死、悪魔およぴ地獄よりほかのなにものでもありえない」ともしている。