35 ニューエイジなかの「反キリスト」

ニューエイジの最大の謎は、「ロード・マイトレーヤ」(主なるマイトレーヤ)という存在である。「マイトレ−ヤ」は、キリスト教世界の存在ではない。彼は仏教のいわゆる弥勒(弥勤仏ともいい、釈尊入滅ののち五十六億七千万年後にこの世に下って民衆を救うと信じられている弥勅菩薩)である。

いったいなぜ、仏教の弥勒(マイトレーヤ)が欧米のキリスト教世界に出現するのかとの源をたどってゆくと、どうやら、十九世紀(一八七五年)にプラヴァッキー夫人によって創始された神智学あたりに突き当たるようだ。プラブァッキー、ベンジャミン・クレーム、アリス・ベイリ−らの神智学協会が、実はニューエイジの最初の布告らしいのだ。ニューエイジ派のある者たちは、インドの天才少年グルシュナムルティをロンドンに連れて来て、救世主(キリスト)に仕立てようと一度試みているが、これは本人のクルシュナムルティが降りてしまったのでご破算になった。

ここからもわかるように、彼ら(その実体は闇のなかに包まれているが、ニューエイジ運動を舞台裏で演出している組織)は、新しい「救世主」(キリスト)として世間に出すための、多くの候補
者を検討したに違いない。そして、彼らはいま、結局、一九六二年二月にパキスタンでユダヤ系の両親から生まれたラーマト・アーマドを、来たるべき世界統一宗教の教祖、救世主(キリスト)として売り込むことを決めたらしい。この人物(アーマド)は一九七七年七月(ということは彼の十五歳のとき)、パキスタンのカラチからイギリス・ヒースロー
空港に到着し、以後、ロンドンのインド人やパキスタン人の多く住む地域で生活してきたという。

ユダヤ人両親の息子であるにもかかわらず、イスラムの伝統と深いかかわりがあるとされ、そしてなお、仏教の弥勒仏であり、キリスト教のイエス・キリストの再現でもあると、ニューエイジ派によって説明されている。つまり、アーマドことマイトレーヤは、一身のうちにユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教のすべてを収斂する救世主である、という舞台装置が用意されているらしい。一九八八年六月十一日に、このラーマト・アーマドこと主なるマイトレーヤ初のお披露目式が、ケニアのナイボリで演じられたと伝えられる。CCNテレビのニュースがそれを報じた(「イェス・キリストが出現した!」)というのだ。それはまぎれもなくキリスト、つまり「黙示録」に預言されている「反キリスト」の登場であったことだろう。