3 「大陰謀」の奥の院にはイエズス会があった

現代アメリカの異色の哲学者キグリー教授が、『悲劇と希望』という大著を発刊している。同書は日本ではまったく知られていないが、アメリカでは知る人ぞ知る古典的名著とされているものだ。キグリー教授は、かつてイエズス会経営の大学に勤務していたが、思想から出発して現代世界に横たわる謎を刻明に追及していったあげく、秘密の一端にイエズス会があることをつきとめた。そして、退職して『悲劇と希望』をまとめたのである。同書は大陰謀の奥の院にイエズス全が鎮
座していることを明らかにしている。これは異味深い結論ではなかろうか。だが、キグリー教授は、どうしてこのような結論を出したのであろう。

世界の歴史のなかで、イエズス会は状況適応の〃名人〃と称されてきた。その場その場で千変万化するのだ。たとえば、スペインのイエズス会は専制を支持し、イギリスのイエズス会は立憲君主制を、パラグアイでは共和政を、インドではアイドラレアー(偶像崇拝者)の側にまで立つというぐあいだ。そうして、いかなる条件のもとでも、ローマのイエズス会総本部の指令下に、その目的をつらぬいてゆく。これは、イエズス会のもつ狂信的なまでの信仰心と禁欲主義、そして巧みな外交術や世俗的知恵、神秘主義への傾斜を冷たく計算してミックスさせた体質によっている。創立者のロョラの性格がそうであったらしい。加えて、全世界に派遣されたイエズス会士は、自分一個の意志をもってはならないとする。イエズス会士は、ローマの本部の命令を勤務地で忠実に実行すべく訓練されているという。こうしてイエズス会のカは、事実上、ローマ法王を上回るものとなってしまったらしい。

実際、イエズス全総長(ザ・ジェスイット・ジェネラル)は「闇の法王」と称され、その命令
は全世界のイエズス会士の一大軍隊に行き渡る。となると、我々は実に奇妙な構図に突き当たることになろう。プロテスタントに対抗してカトリックを防衛するためにつくられたはずの、ローマ法王の手兵(「ミリシア」)としてのイエズス会が、いつの間にか、本来のパチカン主・ローマ法王を押しのけて、バチカンの事実上の主人、影の支配者におさまってしまっている、というものである。ちなみに、イエズス会総長はまた、パチカンに常駐する枢機卿の一人でもある。いったい、イエズス会とはなんであるのか?その最終目的はなんなのであろうか?どうやらここに、我々の解かなければならない秘密中の秘密(それについて日本人は、四百年の間、まったく気づいていなかった)があるようである。しかし、極秘にされているものを、外部の者が認識する方法はあるのだろうか。我々は、表に現われた証拠から推理するしかない。