No.8

衝撃的な発見

一九四八年にイスラエルが建国された時、ヒトラーが六百万人のユダヤ系の人々を虐殺した、という事実が会表された。ドイッがキリスト教国であったことから、西欧、アメリカのキリスト教徒たちの間に「大それたことをしてくれた」というドイッに対する非難や、それに気づかず何の手も差し延べられなかった、という自責の念が広がっていった。ユダヤ系の人々の中にはそれに感謝する者もあったろうが、同時にその同情や自己罪悪感を利用してイスラエル国家を建設することに熱中する一部の人々もいた。これら一部の人々とはシオニストと呼ばれる人々で、宗教的ユダヤ系と言うよりは、政治的グループと言った方がいい。

それから二十数年後、歴史を研究していたユダヤ系の人々が、大変な史実を発見した。ユダヤ系のうち、アシュケナジーと呼ばれる東ョーロッパ系の人々は、大部分が中近東に祖を発するユダヤ系とは全く血のつながりのない、ただユダヤ教を自分たちの宗教として取り入れた別の民族だったという史実である(アーサー・ケストラー著『第十三支族』に詳しい。日本語版は宇野正美訳『ユダヤ人とは誰か』三交社刊)。ユダヤ系には肌の色が浅黒い民族である東洋系のスファラディと、トルコ、フィンランド、ロシア系統で白人に近い西洋系のアシュケナジーという二つの流れがある。一九四八年にイスラエルを建国したのは、このアシュケナジー系である。

ユダヤ系の人々が、「中近東のイスラエル近辺は祖先が住んでいた土地なのだからユダヤ系のものだ、パレスチナ人やアラブ人は出て行け」というとき、その祖先とは何者かがここで問題となってくるのである。この史実からすれば、大部分のアシュケナジー系はユダヤの血を引いていない、ということになるので大問題なのである。いったい、アメリカ市民のうち、どれだけの人がこの事実を知っていることだろう。もしかしたら知らないふりをしているだけなのかも知れない。ユダヤについて語るだけで「反ユダヤ系」と言われてしまう社会で、そんなタプーを冒すことほど恐ろしいことはないからだ。この事実を知った人々の中には、「現在イスラエルにいるユダヤ系は正当なユダヤの血を引い
ていないのだから、イスラエルに住むべきではない」という意見さえある。

しかしシオニスト政治グループの自称ユダヤ系は、この批判には聞く耳持たぬという態度を一貫してとり、一九四八年以来のシオニスト方針を固持している。アメリカのユダヤ系のほとんどはこのアシュケナジーである。当然、彼らはイスラエルを支持するし、そのためにアメリカの政治・経済・外交を操作して、毎年五○億ドルもの援助金をイスラエルに送るように仕向けている。一九九一年三月の下院でも、なんと二四対二七九票もの圧倒的多数で、戦争後のイスラエルへ三億六干万ドルもの援助金を送ることに決定した。

アメリカはこの上さらに、五二億ドルもの援助金をトルコとイスラエルに対して出すこともすでに決定している。アメリカは御存知の通り、世界最大の借金国だ。国内のいろいろな問題が予算不足のため解決できずにいるのに、いったいどこからそんな金が出せるというのか?その分を医療教育・人種問題に振り向ければ困っている人がたくさん助かるはずなのに。アメリカの政治家は、本当にアメリカのことを考えているのだろうか。日本政府は一三○憶ドルもの戦争関係資金を出す約束をさせられたが、これがどこでどの様に使われるのか、しっかり行方を調べてみたいものだ。
 
 

分裂しつつあるユダヤ系の人々

最近はユダヤ系の人々の中にも、微妙な動きが見られる。ユダヤ系実は自称ユダヤ系にすぎないという史実が明らかになっていることもあり、イスラエル地域は自分たちのものだと主張することは非合法的ではないのか、という懐疑もある。また、イスラエルにいる自称ユダヤ系の人々の過激な言動・行動に自分たちは賛成できないし、同類だと思われるのも迷惑だ、という気持ちをもつ人も多い。そして一番不安なことは、「なぜ欧米キリスト教国家が、これほどまでイスラエルを守ろうとするのか」という一種の気味悪さである。アメリカ人の考え方の根本にあるのは、WASPと言われる人々の中でも、メイフラワー号でやって来ての開拓時代のころからアメリカを作り上げてきた、アイルランド系・イギリス系、フランス系等の自人系である。

彼らは明らかに、イタリー系、スペイン系、ポーランド系、ハンガリー系、スラヴ系、そしてユダヤ系などは一級下だと見ている。表面上はそんなことはないと否定するが、そういう差別・優越意識は確実に存在している。したがって、ユダヤ系を優遇しているように見えても、心の底でなにを考えているかはわからないのである。ユダヤ系の人々はそのことをよく知っている。
 

こうした状況の中で、現在アシュケナジー・ユダヤ系の人々は大きく分けて次の二つの潮流に分裂しつつある。一つは「自分たちはユダヤの血を引いていないのだからイスラエルから撤退すべきだ」と考える人々であり、もう一つは「イスラエルを建国したのは自分たちだし、自分たちはユダヤ教の信者にはかわりないのだから、イスラエルに住む権利がある」と考える人々である。しかしどちらの人々も同じ疑惑を強く感じている。「イスラエルは、これから一体どうなるのか」と。