それから二十数年後、歴史を研究していたユダヤ系の人々が、大変な史実を発見した。ユダヤ系のうち、アシュケナジーと呼ばれる東ョーロッパ系の人々は、大部分が中近東に祖を発するユダヤ系とは全く血のつながりのない、ただユダヤ教を自分たちの宗教として取り入れた別の民族だったという史実である(アーサー・ケストラー著『第十三支族』に詳しい。日本語版は宇野正美訳『ユダヤ人とは誰か』三交社刊)。ユダヤ系には肌の色が浅黒い民族である東洋系のスファラディと、トルコ、フィンランド、ロシア系統で白人に近い西洋系のアシュケナジーという二つの流れがある。一九四八年にイスラエルを建国したのは、このアシュケナジー系である。
ユダヤ系の人々が、「中近東のイスラエル近辺は祖先が住んでいた土地なのだからユダヤ系のものだ、パレスチナ人やアラブ人は出て行け」というとき、その祖先とは何者かがここで問題となってくるのである。この史実からすれば、大部分のアシュケナジー系はユダヤの血を引いていない、ということになるので大問題なのである。いったい、アメリカ市民のうち、どれだけの人がこの事実を知っていることだろう。もしかしたら知らないふりをしているだけなのかも知れない。ユダヤについて語るだけで「反ユダヤ系」と言われてしまう社会で、そんなタプーを冒すことほど恐ろしいことはないからだ。この事実を知った人々の中には、「現在イスラエルにいるユダヤ系は正当なユダヤの血を引い
ていないのだから、イスラエルに住むべきではない」という意見さえある。
しかしシオニスト政治グループの自称ユダヤ系は、この批判には聞く耳持たぬという態度を一貫してとり、一九四八年以来のシオニスト方針を固持している。アメリカのユダヤ系のほとんどはこのアシュケナジーである。当然、彼らはイスラエルを支持するし、そのためにアメリカの政治・経済・外交を操作して、毎年五○億ドルもの援助金をイスラエルに送るように仕向けている。一九九一年三月の下院でも、なんと二四対二七九票もの圧倒的多数で、戦争後のイスラエルへ三億六干万ドルもの援助金を送ることに決定した。
アメリカはこの上さらに、五二億ドルもの援助金をトルコとイスラエルに対して出すこともすでに決定している。アメリカは御存知の通り、世界最大の借金国だ。国内のいろいろな問題が予算不足のため解決できずにいるのに、いったいどこからそんな金が出せるというのか?その分を医療教育・人種問題に振り向ければ困っている人がたくさん助かるはずなのに。アメリカの政治家は、本当にアメリカのことを考えているのだろうか。日本政府は一三○憶ドルもの戦争関係資金を出す約束をさせられたが、これがどこでどの様に使われるのか、しっかり行方を調べてみたいものだ。
彼らは明らかに、イタリー系、スペイン系、ポーランド系、ハンガリー系、スラヴ系、そしてユダヤ系などは一級下だと見ている。表面上はそんなことはないと否定するが、そういう差別・優越意識は確実に存在している。したがって、ユダヤ系を優遇しているように見えても、心の底でなにを考えているかはわからないのである。ユダヤ系の人々はそのことをよく知っている。
こうした状況の中で、現在アシュケナジー・ユダヤ系の人々は大きく分けて次の二つの潮流に分裂しつつある。一つは「自分たちはユダヤの血を引いていないのだからイスラエルから撤退すべきだ」と考える人々であり、もう一つは「イスラエルを建国したのは自分たちだし、自分たちはユダヤ教の信者にはかわりないのだから、イスラエルに住む権利がある」と考える人々である。しかしどちらの人々も同じ疑惑を強く感じている。「イスラエルは、これから一体どうなるのか」と。