5 食料支配(3)

シリァル食品会社「ラルストン・ビュリーナ」を創業し、西部劇スターとして一世を風靡した曲乗りのトム・ミックスを使って大宜伝、成功を収めた一族であった。八四年には大ベーカリー会社を買収し、翌年にカーギルが同社の大豆都門を買い取ってさらに関係を深め、その時期から日米摩擦でダンフォース議員が全米を揺るがしはしめた。この男もまた、穀物一族だったわけである。

現在までガットの圧力団体となってきた全米精米業者協会のメンパーを見てみよう。この協会のなかで、カリフォルニア米を扱う西部の大手業者は、パシフィック・インターナショナル・ライス・ミルズ(訳せば太平洋国際精米会社)である。ところが、この会社も、ダンフォースと同じく中西部セントルイスを根城にするビール会社「アンハイザー・ブッシュ」によって八七年に買収されていた。同社の製品として世界一のビールが、パドワイザーである。

アンハイザー・ブッシュは、リチャード・ゲッバート議員を利権の代理人として政界に送りこんだが、この議員が日米摩擦でたち回り、大統領侯補にまで成りあがったことを記憶されているだろう。九四年二月には、日米包括協議という通商交渉で、日本攻撃のためにまたしても姿を現わした人物である。バドワイザーは、麦ではなく屑米からつくられるビールだからである。前述のように、日本に圧力をかけた通商代表力−ラ・ヒルズ女史の夫が重役室にいたのが、このアンハイザー・プッシュだ。パドワイザーと覇を競うクアーズ・ビールも、屑米を利用して醸造されてきた。

こうした理由から、いずれもドイッ系の移民ブッシュ家とクアーズ家によって育てられたアンハイザー・プッシュとクァーズの両社が、全米精米業者協会にメンパーとして名を連ねてきた。このブッシュ家はBuschと書き、大統領だったイギリス系のプッシュ家Bushとは無関係である。

後者の子会
社クアーズ会品は、八七年に穀物商社アーチャー・ダニェルズ・ミッドランド(ADM)の子会社として、ADMミリングと社名を変えている。ADMの重役室に座っていたのが、マーガレッタ・マーフィーという女性で、もと副大統領ネルソン・ロックフェラーの未亡人であった。ここに、全米を動かすガット「最大の黒幕」がいたわけである。

では、穀物商社のカーギル家、バドワイザーのブッシュ家、クアーズのADMを支配するロックフェラー家は、相互にどのような関係になっていたのか。視点を変えて、彼らを一個人として追究してみたい。どのようなブァミリーを構成しながら、実際にアメリカの食品産業を支配してきたか、それを知るには、従来の穀物関係書において説明されなかった影の部分を、系図の調査によって追跡することが必要になってくる。穀物商社力−ギルと、全米精米業者協会を中心にすえて、これまでの社名と人間関係を見る。

カーギル社の資金を支えてきたのは、デヴィッド・ロックフェラーが会長をつとめるチェース・マンハッタン銀行であり、この巨大銀行がカーギル家を資金面で支配していたことはよく知られている。また、ロックフェラー財団の研究資金によって、いわゆる緑の革命という小麦の改良がおこなわれ、穀物業界がロックフェラーに感謝してきた歴史の重みは大きい。しかしその動機は、農業への愛情ではなく、実はファミリー・ピジネスの利益が目的であった。初代の石油王ジョン・D‐ロックフェラーの娘が、全米の農耕機械を支配した発明家サイラス・マコーミックの息子と結婚し、インターナショナル・ハープェスター社(国際収穫機)という穀物帝国を築きあげていたからである。同社は、自動車会社フォードやジョン・ディーヤと肩を並べる農耕機械メーカーで、現在はナプィスターと社名を変えてきた。
 

次にカーギル家とロヅクフェラー家、アンハイザー・ブッシュ家が一家族であることを示す。これらが同じだという点に米自由化間題の答‐−ファミリーの利権というこれまでに語られなかった背景がある。すべての国の農業関係者を、温かい目で見たいと思っている。しかし、そこに登場するのが、第三世界の麻薬問題で最大の耳目を集める、犯罪者の金を浄化するマネー・ロンダリングの銀行家たちであった。カーギルの秘密主義は、ョーロッパのスイスにおいて見られるだけでなく、このような麻薬資金を公然と扱う現代の中南米マフィァの世界で培われてきたのである。

しかも、この系図に描かれた麻薬マフィアが、ただの銀行家ではなく、ひとりはIBM副社長で司法長官の経歴を持つニコラス・カッッェンパック、もうひとりがエマーソン電機会長で空軍長官のスチュアート・サイミントンという、政財界のトッブであった。エマーソン電機の重役室にアンハイザー・ブッシュの会長が座っていたのは、そのような関係からであった。
 

ことにサイミントンは八八年にこの世を去るまで、もと国防長官のクラーク・クリフォードとともにそのいかがわしい銀行事業を共同経営し、〃水爆の父〃ェドワード・テラーの弟子を自任する危険人物であった。サイミントン、クリフォード、アンハイザー・ブッシュ、ダンフォース、ゲッパートが形成したセントルイス財閥が、日米摩擦の震源地となったのは、このような理由からだった。現在はそれが形を変えて、米の輸入自由化問題として再登場してきたわけである。ルーズヴェルト大統領の祖父ウォーレン・デラノもまた、この系図に見られるように、全米最大のアヘン取引き業者であった。
 

さらにここで重要なのが、さきほど述ぺた二大製粉業者のひとつ「ピルズペリーの社長」アルパート・ロアリングが一族を形成していることである。彼らはなぜ一族になったのだろうか。さきほどの北米大陸の地図を見れぱ分るが、アメリカの穀物商を育ててきたのは、大河ミシシッピとその上流ミズーリ河の流域都市である。スペリオル湖やミシガン湖の五大湖を境にして、北へ向かえばカナダの穀物取引所ウィュペッグがあり、南へ下ればミネアポリス、シカゴ、セントルイス、そして穀物積み出し港ニューオルリーンズへ至る。なかでもミネアポリスは、のちにノーザン・パシフィック鉄道(北米大鉄道)によって大きく発展し、カナダからの窓口となる穀物エレベーター・キングがひしめき合う都市として栄えてきた。カーギル、ゼネラル・ミルズ、ピルズペリーの三大会社がここに本社を構えている。

ミシガン州デトロイトが自動車の街であるのに対して、ミネソタ州ミネアポリスは穀物の街。その街に住み、同じ仕事に従事しながら、この三社が広大な全米のエレベーターや製粉所を次々に買収していった歴史の裏には、共同作戦が必要であった。彼らは互いに、表向きはライパルを演じてきびしい顔を装いながら、市場の価格を自分たちの思いのままに動かしながら巨大な利益を手にしていったのである。その方法は、カルテルでもなげれば、トラストでもなかった。

最も簡単で、最も信頼性の高い方法は、利権者同士の結婚であった。娘やムコをやりとりしながら、独占禁止法にふれない穀物コンッェルンを形成してしまったのが、穀物業界の秘密だった。これが、今日まで一度も明らかにされなかった、穀物商社の謎に対する答になる。『巨大穀物商社』の著者ダン・モーガンが指摘したミネアポリスの穀物エレベーター支配者の四家族を調ぺて見ると、実際には主な五家族を中心にして、相互の結婚を描くこと
ができる。

二大製粉業者のゼネラル・ミルズとビルズベリーの社史を描いてある。創業者は両社とも、カドワラダー・ウォッシュバーンとウィリァム・ウォッシュバーンの兄弟で、そこにピルズベリー家、ベル家、クロスビー家、ピーヴィー家が寄り合って、大量のエレベーターが結婚する図となっている。現在までの調査で、彼らが完全な一族であるという系図学上の最終確認ができたので、各家族の要人の系図を示しておきたい。つまり二大製粉業者は、重なり合いながら、ひとつの企業連合を形成してきた。肩書に示される通り、彼等はこのわずかな人数で、マサチュセッツ州、イソディアナ州、ミネソタ州、ヴァーモント州で最高権力の州知事の座を占めており、穀物業のために銀行から船舶、鉄道、さらには政府要職構に至るまで支配の手を伸ばしていた。

それはよく言えば農業保護者の姿であるが、反面で農業支配者だったことも間違いない。ガットの合意事項とは、それを全世界に広げた一家族のための米市場開放要求だったのである。アメリカのわずか一家族から圧力を受けただけで、これほど簡単に農地を売り渡す日本の政治家と官僚には、事情がよく分っていないのだろう。この集団には、もうひとつの特徴がある。アメリカの製粉業界にあって、穀物業者と全米精米業者協会を裏から動かすゼネラル・ミルズというマンモス会社を支配する人物‐−現代の副社長がスティープン・ロスチャイルドであった。これまで、穀物商社としてカーギル社を中心に述ぺてきたが、ョーロッバや南米からアフリカにかけては、ルイ=ドレフュス、コンティネンタル・グレィン、ブンゲというユダヤ系の三大穀物商社の総合力がこれを上まわり、過去には全世界の植民地に進出して、貧困世界の独裁者を育ててきた。

その本質的な支配状況は、現在でも変らな
い。その元締めとなってきたのが、世界最大の財閥ロスチャイルドであった。このような人物が支配する世界にわれわれの水田やアジア全土の穀倉地帯を野放しにしてよいものだろうか。アメリカで最初に大きな穀物商として活動したのがアイザック・フリードランダーで、彼は〃ドイツ系ユダヤ人〃と言われてきたが、実際にはロスチャイルド家の一族フリートレンダー(Friedlander)であった。

また、穀物業者ピルズベリーが大発展した前世紀末に、同社が手にした資金は、イギリスの金融集団からの融資だった。それから九九年後の一九八八年に同社を買収したのが、やはりイギリス・ロスチャイルド財閥のグランド・メトロポリタンであった。したがってアメリカの農産物支配者を、アメリカ人とみなすのは正しくない。また、ヨーロッパのロスチヤイルドがここに登場してくれば、ガットの利権が米だけではなく、あらゆる農産物にひろがることが分ってくる。