3 食料支配(2)

世界最大の穀物商社力−ギル

世界最大の穀物商社力−ギル……これは、ウォール街に上場もせず、カーギル家が支配してきた同族会社である。その名は今日の地球の生命を支配する怪物として知られながら、完全な秘密主義のため、活動は深い闇のなかにある。信じられないような話だが、ほんの十数年前のァメリカの調査で、農民のほとんどがそのカーギルという名前を耳にしながら、実にアメリカ農民の半数は、カーギルが何の会社であるか知らなかったという。それほど、穀物商社の秘密主義は徹底している。アメリカの巨大な穀物産業のなかで、取るに足らないほど小さな米産業が、日本に進出をはかろうとする隠された目的、それはわが国を土台から揺るがすカーギル・シンジケートの本格的進出である。このシンジケートは、カーギル家だけでつくりあげたものでなく、アメリカの国家そのものだからである。CIAを利用してきたカーギルの一族が、一体どのようなものであるか、われわれは知らない。
 

その事業を支える底力がどこに秘められているかについて、穀物商の全体像を見ながら、過去の解析を新たに調ぺなおしてみる必要がある。以下に、穀物商がアメリカでどのようなメカニズムで構成され、小麦と米とがどのような関係にあるかを、日米問題のなかで見てゆき、正確に人脈を描いてみよう。穀物商の力は、小麦や米を作る農民の目から見れば、まず収穫物を買いあげてくれる金融力にあり、次にこれを運搬して貯蔵する鉄道、船、倉庫の支配力にある。

ことにァメリカでは、写真に見られるように、穀物の倉庫がエレベーターと呼ばれる巨大なサイロであり、ダムのように大きい。小麦やとうもろこしを、このなかでただ貯蔵しておくわけでなく、穀物が出す揮発性のガスを絶えず厳重に管理し、また、腐らせないようにするため、湿度を下げなければならない。それには莫大な投資を必要とするからだ。この穀物エレベーターの支配者が、今日の穀物商社の支配構造そのものとなっている。ダン・モーガンの著書『巨大穀物商社』(日本放送出版協会)に、アメリカにおけるエレベーターの支配の歴史が描かれているが、モーガンの結論と、私が別におこなった調査結果は、ほとんど同じものであった。

モーガンによれば、カーギルの本社が存在するミネノタ州ミネアポリスが製粉業を支配し、この製粉業者を支配してきたのは、わずかに四家族である。このファミリーの名は一般にはほとんど知られていないが、ウォッシュパーン、ピルズベリー、クロスビー、ベルの四家族であった。アメリカの穀物業の世界に登場してくるのは、普通はカーギル、ルイドレフュス、コンティネンタル・グレイン、プンゲ、アンドレの五大穀物商社である。最後のアンドレ社の代りに、アーチャー・ダニェルズ・ミッドランド社が五大殻物商社に数えられることもある。しかしこの五大商社だけでなく、彼らと取引きをする製粉楽者が、背後で
大きな力を持っているのである。

製粉業者は、粉ひきの道具に由来して、ミル(mill)またはミラー(miller)と呼ばれる。コーヒーをひくコーヒー・ミルと同じである。その世界最大の製粉業者として覇を競ってきたのが、ゼネプル・ミルズとピルズベリーであった。バンや小麦粉など実際の食品の販売ルートをおさえている彼らが、一世紀以上にわたって穀物商社の背後で動き回ってきた。両者はいずれもアメリ力最北部のミネアポリスを根拠地として、同じ源に発するひとつの企業連合を形成してきた。そして彼らこそが、ガットで日本に米の自由化を追る「全米精米業者協会の黒幕だったのである。

この精米ということばが、英語でmillersと書かれているところに注意していただきたい。決して穀物商社でも、米生産者でもなかった。黒幕は、製粉業者であった。小麦の業者と米の業者は、日本から見ると異なった職種に見える。ところが全米精米業者協会には、カーギルの子会社トレーダックスのほか、ルイ=ドレフュス、アーチャー・ダニェルズ・ミッドランドという小麦の巨大商社がメンバーとして名を連ねていた。大きな小麦業者が、小さな米業界の資本家として介入していたのである。また、アメリカにおける米の生産は水田に飛行機でモミをまく大規模経営であるため、農機具や金融の面で、小麦業界と裏で完全につながっていたのだ。具体的にガットの穀物行政を動かしてきた人物は、誰だったろう。七〇年代の後半に農務省に君臨したリチャード・ベルは、大統領農政委員会で大きな発言力を持チ、国際小麦会議でアメリカの代表をつとめた〃小麦〃の代理人である。〃米〃ではない。と
 

ころがその裏で、ペル個人は、大きな精米業者「ライスランド・フーズ社」を経営し、社長の座にあった。その社名は、文字通り、米王国食品というものだ。この男が、全米精米業者協会を動かす最重要人物であり、米市場開拓協議会の幹事として、米自由化問題で精力的に動いてきた。それは、自分の会社のための活動であった。このように、小麦と米は同じ穀物支配者によっておさえられてきた。業界で有名なもうひとりの男がダニェル・アムスタッフ…・ガットで〃アメリカ提案〃を起草したこの米問題の最高責任者は、農務次官としてすぺてを取り仕切った人物である。その経歴は、四半世紀にわたってカーギルで過ごし、特に同社が海外へ進出するために生みだした子会社「トレーダックス」の創立者である。
 
 

この秘密組織の本拠地を、脱税天国のパナマ(カリブ海)とスイス(ョーロッパ)に置き、大いなる成功を収めて筆頭副会長の座につくという華々しいものであった。アムスタッフー族はもともとスイス人で、その姓はAmstutzと書かれる前に、Am-Stutz(アガム・シュトグッツ)またはde Stoutz(ド・ストウーツ)と書かれ、今を去る二○○年以上前にアフランスで取引きを開始し、穀物の取税吏と結婚して大富豪となった。特に、一族のバウル・ァムシュトゥッツは酒づくりの醸造業から転じて、第二次世界大戦中の最も重要な時期にスイス連邦税務局で局長の座につき、銀行家と大閨閥を形成した。ここが、タックス・ヘイプンやマネー・ロンダリングの窓口であり、彼のバートナーとなったウィス家は、犯罪者の金を浄化するスィスで最も悪名高いクレディ・スイスの創業者一族であった。そして一九七六年に、このクレディ・スイスがカーギルの秘密組織トレーダックス・ェクスポートの株を五○%取得し、穀物市場に資本参加することになったのである。

同族経営で知られるカーギルが、アムスタッフをNo.2の重要ポストに登用したのは、当然このヨーロッパへの事業進出と、財産隠しが目的だった。スイスのアムスタッフは、それを見事にやり遂げたのである。彼が狙った次の標的が、不幸にして日本の農業であった。彼は全米精米業者協会に、準会員としてトレーダックス社の代表を送り込み、自らは農務次官として今日のガット問題に火をつけた。現在のカーギル社は、ただの穀物商社ではなく、日本の酪農をすでに支配している動物飼料(トウモロコシなど)から、種子、食塩、小麦粉の加工製品、養鶏、大豆製品に至るまで、ほとんどすぺての食品産業に進出した巨大な秘密帝国である。

米の自由化を皮切りに、大がかりに日本を食いつくす危険性はきわめて高い。しかも、食品の添加物・防腐剤・薬品処理などの規制を取りはずして、日本だけでなく世界的に危険な食品の流通を認めさせることが、カーギルのアムスタッフが出したアメリカ提案の裏の狙いでもあった。防腐剤をふりかけて輸出ができれば、きわめて安いコストで食糧輸出が可能になり、莫大な利益が保証されるからだ。