3 食料を支配する

さて世界の五大穀物商社は、いずれもアメリカの国籍を持ち、そのうちカーギル社が最大の存在である。つまりカーギルなどの国際的な巨大穀物商社が、「濡れ手で小麦粉を掴むように」露骨にガットの利益に手を伸ばしてきたのである。また、この会議で事実上のリーダーをつとめたのは、アメリカである。その通商代表だったカーラ・ヒルズというお馴染みの女性は、世界一のビール「パドワイザー」を生産するアンハイザー・ブッシュ社の重役ロデリック・ヒルズの妻であった。このビールの原料が、屑米だったのだ。アンハィザー・ブッシュには子会社に「ブッシュ農業資源社」があり、これが全米精米業者協会の正会員であった。しかもその全米精米業者協会が、ガットで最大の圧力団体として動いた黒幕だったことは、日本の農協とすぺての記者がご存じのはずだ。
 

つまりヒルズ通商代表は、自分の夫の会社の利益のために、日本の農業つぶしを目的として精力的に活動してきたのである。これは、分りやすい一例にすぎない。実は、さらにスケールの大きな、壮大な利権がからんでいたのである。農業輸出における全世界のなかのシェアは、第一位のアメリカが八○年代初期には地球上の二割近くを占めていたが、八八年には一四%まで落ちこんでいた。その分だけ、二位のフランスや三位のオランダが輸出を伸ばしてきた。しかしこのような国籍だけで分析すると、過ちを犯すことになる。このように巨大なアメリカの農産物輸出のなかで、日本が輸入することになった米が占める割合は、穀物輸出全体の五・五%にしかならず、農産物全体のなかではわずか二%にすぎないのである。

ァメリカの広大な殻物産業のなかで、取るに足らないほど小さな米産業が、日本に進出を
はかろうとするのは、隠された別の目的があるからだ。アメリカが考えてきたのは、日本侵略だけでなく、地球全体の食料支配である。一人間の主食として、なくてはならない穀物、そのなかでも東南ァジァ全域の生命を支えているのが米であり、ほかの地域では主に小麦が食されている。米と小麦(バン)は、およそ半々の比率で地球を二分し、五○億の生命がこの二大穀物に頼って生きている。

米問題を考える時に忘れてならないのは、米が日本人の主食であるだけでなく、アジア全域、とりわけ生活のきびしい状況にある第三世界で、最大のカロリー源となっていることである。アメリカの五大穀物商社が、その大部分の貿易を動かしているのだから、大変に危険である。彼らは第三世界に巣喰う麻薬産業と深い結びつきを持ち、軍隊や諜報機関と共に海外へ進出してゆくからである。激動後の地球でいま何よりも求められているのは、この第三世界での内乱を鎮めるために一切の兵器輸出を禁じることと、自立経済を生み出すために食生活を安定させること、この二大要件であろう。

ところが、ァメリカの巨大穀物産業が進出することによって、これまで多くの国で農家の生活が立ちゆかなくなり、最終的にはあらゆる工業分野まで支配を受け、巨大な借金(債務)をかかえて各地に内乱と難民を生み出してきた。日本は無責任にガットに合意したが、そのためにアジアや第三世界への深刻な影響が出ることが忘れられてきた。金にあかして二○○万トン以上もの米を輸入することになれば、日本が米相場を一挙に押し上げてしまい、貪しい国を飢餓で苦しめる。すでに、世界一の米の輸出国タイでは、米の価格が九三年八月のトン当たり二四○ドルから、九四年一月の五○○ドルへと二倍以上の上昇を記録した。これは、日本が大量のタイ米を買いつけたためで、タイからの食ぺ物を侍っていた第三世界の一○○力国以上は、深刻な食料不足に見舞われている。タイ米の輪出量は、九
 

北朝鮮も九三年の米の収穫が落ちこんで、米だけで二四○万トン不足している。いまや全世界が、最悪の食糧難に陥っている。これこそ、穀物商の願っていたことである。