今やプッシュはそうした指導者の頭ごなしに直接、全米の保守的な
クリスチャン、毎週のように教会に出かけて信徒席に座る草の根の選挙民に、自分をアピール
することができるようになった。
突然のテロ事件によって、宗教右派の事実上 の指導者となった米大統領は、宗
教右派指導者の頭ごしに、福音派に直接自分を売り込むことができるようになった。かつてキ
リスト教連合の有力指導者で、現在は保守のシンクタンク、ハドソン研究所のマーシャル・ウ
ィットマンはそう考えた。プッシュは以前から宗教用語を巧みに交える術を心得ていると評判
高かったが、九・一一後にはさらに磨きがかかった。宗教保守に属さない者にとっては、スピ
ーチや演鋭に宗教言葉が混じるのはなんとも居心地悪いものだが、福音派にとってはこれほど
心を揺さぶられることはない。熱心な教会信者であればあるほど、プッシュが繰り返し語り出
した「悪の枢軸」との戦争、アメリカの使命に心を高ぶらせた。
プッシュが保守的な福音派にすり寄り、福音派のほうも彼に熱い期待を寄せるという関係は、
こうしてテロによって一挙に高まった。この当時、インターネットで福音派や原理主義者のホ
ームページを開いてみると、「テロリストの暴力から、われらの大統領を守るため、今日も主
の名を賛美して祈ろう。詩編九一・一一−一二、コリントの信徒への手紙一、一・一〇」と、
そんな書き込みが雨後の筍のごとくに現われ、そしてアメリカ全土では日々プッシュのために
祈りをささげる人々が無数に輩出した。