遺伝子組み換え作物とアメリカモンサント社
「人類が作り出した中でも最悪・最凶の企業はどこかと言われれば、それはモンサント社だと私は答える」
フランスの遺伝子組み換え作物反対の第一人者であるジェフリー・スミス氏はそう語った。
この言葉を裏付けるかのように市民メディア「ナショナル・ソサエティ」は2011年にはモンサント社を「世界最悪の企業」として選んでいる。
それも当然だ。内情を知ると、道義的にこんなことが許されるのかと怒りに震えるほど悪質だ。
この会社は「遺伝子組み換え作物」を作っているのだが、どのように遺伝子を組み換えたのか?
まずは、「自社が販売している農薬だけ耐性のある作物」を遺伝子工学で作った。モンサント以外の農薬をまくと雑草と一緒に枯れる。だから、農民は嫌でもモンサント社の農薬を買うしかない。
次に、「1年しか実がならない種」を遺伝子工学で作った。だから、農民は毎年モンサント社から種を買わなければならない。
この「種」と「農薬」のセットで食糧を支配しようとしたのがモンサント社なのである。
もちろん、これに対して全世界の農民が反旗を翻しており、カナダでもインドでもフランスでもブラジルでも次々と集団訴訟が起きているが、モンサント帝国は揺るがない。
なぜか。モンサント社はブッシュ一族と深い関係にあり、アメリカの政界に強力なコネクションを持ち、モンサントの独占戦略をアメリカ政府が後押ししているからである。
遺伝子組み換え作物で「武器としての食糧戦略」を進めるのが、実はアメリカの戦略でもある。
フランスでは遺伝子組み換え作物に対しては強硬な反対を貫いている。
2007年、ステイプルトン元駐仏大使が業を煮やして、遺伝子組み換え作物を拒絶するEUに「アメリカ政府として報復措置を取るべきだ」と言ったことは、すでに2010年にウィキリークスでも暴露されている。
遺伝子組み換え作物を拒絶したら、アメリカ政府が何らかの報復をする。受け入れれば、食糧はアメリカのモンサント社から買うしかないので、アメリカに敵対したら種を売ってもらえなくなる。
そうすると、いくら自給率が100%でも意味がなくなる。
「1年しか実がならない種」しかないのだから、アメリカが「売らない」と言った瞬間に自給率はゼロになってしまう。
1年しか実がならない種子は「ターミネーター種子」と言われている。そのターミネーター種子を使って「相手国の食糧の根本的な部分を支配する」戦略はもちろんオバマ政権でも受け継がれている。
日本でもすでにモンサント社が静かに入り込んでいるが、日本全土をこの遺伝子組み換え作物で覆い尽くそうというのがTPP(環太平洋連携協定)の狙いでもあった。
TPPは農業問題ではないという人もいるが、農業分野でも重要な変化が起きるということは認識しておいたほうがいい。
アメリカの押しつける「ターミネーター種子」が拒絶できなくなって日本全土が遺伝子組み換え作物に覆われるようになったら、その時点でアメリカの奴隷になってしまう。
「我々アメリカに逆らうと、もう種子を売らないぞ」
そう言われたら1億人の日本人にもう食糧はない。種子を握っているのはアメリカ政府と結託しているモンサント社なのだから、種が手に入らないなら、翌年から自給率はゼロだ。
この遺伝子組み換え作物の特許はモンサント社によって保持されており、モンサントはこの分野を独占している。
モンサント最大のライバル企業はデュポンだが、モンサントはデュポンすらも特許侵害で訴えて、なりふり構わず特許防衛に走っている。
2012年8月1日、この特許侵害訴訟においてデュポンはモンサントに10億ドルの支払いを命じられているが、これはとても重要な判決でもあった。
なぜなら、今後はモンサント一社がこの分野での独占度をさらに高めて食糧支配を成し遂げることが決定づけられたものだったからだ。
モンサント社が売らないと決めたら、世界は飢餓に陥る。そんな世界になっているのである。
小さな種子が作物をつける。そして実がなってたくさんの種子ができる。その種子を植えると、また翌年にはたくさんの実がなって、たくさんの種子ができる。
そんな当たり前のことが分断されてしまった。
1年しか実のならない種子を作ったのは「人間」である。ある1社が、自分たちが儲かるためだけにそれを作って売り出して世界を支配しようと考えた。
ビジネスのために生命が「改悪」されてしまった。
確かにそれでモンサントは儲かるだろう。しかし、人間社会にとって「1年しか実のならない種子」は悪夢以外の何者でもない。最終的には農業そのものを弱体化させてしまう要因にもなってしまう。
誰もがそれに対して危機感を持っている。
しかし、実はそれで終わりでもないのである。モンサントは次に何を標的にしているかご存知だろうか。それは「水」である。
農業で重要なのは作物を育む「水」だ。この水を支配しようとしているのである。
2000年代から、モンサント社は様々な国で「上下水道」の運営・管理する企業や権利、あるいは「飲料水」を販売する企業を次々に買収してきた。
インドではすでにウォーター・ビジネスをモンサント社が独占していると言われているが、農業に使う水、あるいは飲料水が欲しければ、モンサント社に金を払わなければならない。
なぜ「水」を支配するのか?
それは、これから将来何が起こるかモンサントは知っているからだ。これから全世界で「水不足」が深刻化するのである。
だから、上下水道、および飲料水を押さえておけば、今後は全世界がモンサントに「水を売ってくれ」とひれ伏すことになる。
あるいは、バイオ企業なのだから、「水」にも何か混ぜて細工する可能性もある。今後、「水」に何が起きても、私は驚かないだろう。
折しも、フランスからモンサントを告発する映画も来るようだ。『モンサントの不自然な食べもの』という映画だ。農業大国フランスで150万人が観たと言われている。
日本では大勢の人が見ることになるのだろうか? それとも日本人は誰もそんなものに興味を示さないのだろうか?
世界の遺伝子組み換え作物市場で90%のシェアを持つバイオ企業が何をやっているのか知ることは日本人にとっても重要なはずだ。
これからは、モンサントが日本の食糧事情を支配するのだから。