Wagnerはその後に、聖公会のMichael Harperの『Miracles help people believe（奇蹟は人々が信じるのを助ける）』から引用する。
ここに、奇蹟が救いの信仰を促すという、「カの伝道」の鍵となる考えがある。
それだけではなく、奇蹟は説教よりも効果的なのだ。Wimberは、単純に福音のメッセージを宣べる者は真の伝道に不十分だと言う。彼はそれを「programmatic
evangelism（プログラム的伝道）」と呼び、それに代って必要なのは「力の伝道」だと言う。「力の伝道は、合理的であると同時に合理的なものを超える福音の提供を意味する。福音は、しるしと不思議による神の力の表明と共に説明される。
カの伝道は、自発的な、聖霊に鼓舞された、力ある福音の提供だ。力の伝道は、神の臨在の超自然的な表明に導かれ、支えられた伝道だ。これらの超自然的な遭遇により、神の臨在と神の力を体験する。通常、知識の言葉（words of knowledge）、（中略）癒し、預言、悪霊追放という形を取る。力の伝道において、福音への抵抗は超自然的出来事における神のカの表明によって克服され、キリストの主張の受容率は通常、非常に高い」と。
この考えには二つの誤りが潜んでいる。両方とも、人々をキリストヘの真の信仰に効果的に導くことができない。第一に、奇蹟が伝道の基礎になるとき、キリストによる私たちの罪の贖いや私たちの生活におけるキリストの支配（ローマ14：9）という福音の真のメッセージは付随的なものとなる。歴史的・聖書的イエスが神秘的・天上的イエスのために脇へ追われる。信仰の焦点はしるしと不思議になり、救い主でなくなる。
奇蹟に信頼する者は、どんなに熱心にキリストの名を呼んでも、その信仰によっては救われない。真の救いの信仰の対象は主イエス・キリストであって、誰かの奇蹟ではない。ガラテヤ2章16節は、「人は律法の行ないによっては義と認められず、ただキリスト・イエスを信じる信仰によって義と認められる、ということを知ったからこそ、私たちもキリスト・イエスを信じたのです。これは、律法の行ないによってではなく、キリストを信じる信仰によって義と認められるためです。なぜなら、律法の行ないによって義と認められる者は、ひとりもいないからです」と確認する。
どんな伝道者も、パウロが「最もたいせつなこと」と言う福音の基本的・聖書的・歴史的事項、つまり、「キリストは、聖書の示すとおりに、私たちの罪のために死なれたこと、また、葬られたこと、また、聖書に従って三日目によみがえられたこと」（_コリント15：3〜4）を明らかにするまでは、人をキリストヘの信仰に招いてはならない。パウロは、「十字架につけられたキリストを宣べ伝える」ことを自分の目標とした（_コリント1：23）。それが、福音宣教の中心的な焦点だ。これを除いたメッセージは、伝道的なものとなりえない。
第二に、「力の伝道」［という言い方］は明らかに非聖書的だ。既述のように、「信仰は開くことから始まり、聞くことは、キリストについてのことばによるのです」（ローマ10：17）。しるしや不思議でなく、福音が「救いを得させる神のカ」（ローマ1：16）なのだ。聖書を拒絶する者は、たとえ復活を目撃しても、信じないだろうと主イエスは言う。「もしモーセと預言者との教えに耳を傾けないのなら、たといだれかが死人の中から生き返っても、彼らは聞き入れはしない」（ルカ16：31）と。
主イエスは、多くのしるしや不思議を行ったが、「力の伝道」を行わない。主は、しるしを要求する者を繰り返し叱る（マタイ12：38〜39、16：1〜4、マルコ8：11〜12、ルカ11：16、29、23：8〜9、ヨハネ4：48）。主イエスの働きの強調は、奇蹟ではなく、説教にある。主はしばしば、しるしや不思議なしで説教した（マタイ13：1〜52、18：1〜35、ヨハネ7：14〜44）。
マルコ1章29〜34節は、主イエスがガリラヤで多くの奇蹟的な癒しを行ったと記録する。37節では、ペテロたちは、翌朝、主イエスを見つけると、興奮して、「みんながあなたを捜しております」と言う。彼らは主イエスにもっとしるしと不思議を求める。しかし、主イエスは、「さあ、近くの別の村里へ行こう。
そこにも福音を伝えよう。わたしは、そのために出て来たのだから」（38節）と言う。主イエスにとって、御言葉を宣べることは、しるしや不思議よりも重要だった。第三の波は異なったアプローチを提唱し、悔い改めを求める土台なしに、超自然的な体験を正面に建てようとする。これは聖書的な伝道ではない。