2002年10月4日(朝日新聞)
米ブッシュ政権が、イラクとの対決姿勢を強めている。国連を舞台にした外交戦は、国際世論の支持を得るための宣伝戦の様相を呈してきた。対イラク攻撃はどう正当化されるのだろうか。「戦争プロパガンダ10の法則」(邦訳・草思社刊)の著者でベルギーの歴史家、アンヌ・モレリ氏に聞いた。(ブリュッセル=脇阪紀行)
■■■■戦争宣伝「10の法則」と米ブッシュ政権■■■■
<戦争宣伝「10の法則> <米の言い分や姿勢>
【外交戦】
我々は戦争をしたくはない ── イラクとテロリストは結託
敵側が戦争を望んでいる ── 戦争の責任はイラクにある
指導者は悪魔のような人間だ ── フセイン大統領と国民は別
【戦闘準備】
領土や覇権を狙ってはいない ── 反テロ戦争の遂行が使命だ
敵は残虐行為に及んでいる ── イラク軍が化学兵器を使用
卑劣な兵器や戦略を用いる ── 今も核兵器を開発している
【戦闘開始】
我々の受けた被害は小さい ── 空からの高性能爆弾の投下
知識人や芸術家も戦いを支持 ── 愛国心キャンペーンの高揚
【戦闘長期化】
我々の大義は神聖なものだ ── 「9月11日」を忘れるな
疑問を投げかける者は裏切り者だ ── 米国民と共に戦うか、否か
(モレリ氏の著書、ベルギー紙への寄稿から)
──過去の戦争で、自国の攻撃を正当化するプロパガンダに法則性があるとの論は、米国の反テロ戦にもあてはまるか。
「その通り。今は対イラク戦をにらんだ外交戦の段階だが、米国は『我々は戦争をしたくない』としながら、イラクが国連査察の拒否を繰り返していると言っている。核兵器や生物兵器の開発によって『フセイン大統領が戦争を仕掛けてくるに違いない』から仕方がないとの論理だ。『フセイン氏が国民に暴政を行っている』との主張も法則に合う」
「イラクの石油をめぐる利権が米国の真の戦争目的だと見る人は多い。欧州世論はイラク攻撃に懐疑的だ。米政権からすると世論工作の必要性が高まっている。戦争プロパガンダはこれから本格化するだろう」
──イラクによる国連査察チームの無条件受け入れ通告で、国連の議論が振り出しに戻った。
「巻き返しを図る米英は、『イラクが卑劣な手段で大量破壊兵器を開発している』という主張を強めるために、疑惑を裏付ける『証拠』を示し、イラン・イラク戦争中にイラクが行った『虐殺』を持ち出して、フセイン大統領の残虐さを強調するだろう。国際世論が納得しなければ、最後にアルカイダとイラクとの関係を示すものが出てくる。明確な『証拠』でなくても、説得力がありさえすればいいのだ」
──その段階になると、武力攻撃ということになるのか。
「米国では愛国心が高揚している。戦闘が始まれば、戦争に疑問を投げかける人に対しても『イラクを支持するのか』と非難の声が出るだろう」
──イラク側の姿勢はどうか?
「イラクの主張もプロパガンダだ。国連チームを無条件で受け入れることで、『イラクは平和を望み、戦争を欲しているのは米国』とのイメージをつくろうとしている」
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ブリュッセル自由大学歴史批評学教授。54歳