■・C型肝炎は知らぬ間に肝臓を破壊する「悪魔の病」

 さらにC型肝炎(HVCともいう)にも触れておこう。この病気には、四百万もの米国人が感染していながら、本人らはそれに気づいていない。疾病管理予防センターの推定では、HIV感染者の四倍の人数がC型肝炎に感染しているという。米国で公表されている症例数は、意図的に抑えられて四〇〇万となっている。ダラスにあるペイラー大学医療センターのロバート・ゴールドスタイン博士の確認では、最低でも四〇〇万だが、HVCに関しては「エイズも顔色がなくなるほど」だという。

 HVC患者の多くは不治の肝臓障害になったり、肝臓癌になるなどする。統計的な徽候から見て、HVCは伝染病となって米国を襲うと確認したのが、ワシントン大学医学部でHVCを研究するチャールズ・ライスだ。ライスによれば、医療関係の専門家が「フラストレーションを起こす」ほど、この段階ですでに全国的な流行病に発達しそうなのだという。

C型肝炎にかかっていて、HVC(この呼び名が定着しっつある)の存在と関連すると考えられ
る症状を見せている人の実数は、現在絢二五〇〇万と推定され、なお増加中だ○これは、情報筋が報告してくれた、世界保健機関とCDCの数字だ。一九九九年六月八日、トップレベルの医学者、医師、研究者を集め、メリーランド州ベセズダで秘密会議が開かれたが、閉め切ったアの向こう側では、この大問題に関してまったく真剣な討論はなされなかった。 HVCはまさに圧倒的な勢いで現れてこようとしているのに、だ。

 C型肝炎は、一四世紀の人間なら「悪魔の病気」と呼んだだろう。この恐ろしいウイルスは、米国全土で数百万人を衰弱させ死にいたらしめるだけでなく、全世界でも、報告件数はむこう一〇年で四倍になると見られる。C型肝炎のウイルスはほとんど目に見えないところで活動する。犠牲者が気づかぬままに一五年も経ってから症状が頼れ、そのときには肝臓が完全にやられている。
 C型肝炎はすでに肝不全の第一の原因であり、しかも死にいたるものだが、犠牲者のわずか五・二〇パーセントしか自分がこの病気にかかっているという自覚がない (米国人の五五人に一人は血液中にHVCが存在している)。一方死亡率は、年間一万人だったものが、過去三年間で三倍に上昇している。むこう一〇年で、HVCの件数は全国的流行病といえる規模となり、米国人数百万人が死への族路の最終段階を迎えるだろう。

 この病気を米国に持ち込んだとして特定の民族を批判するのはわたしの主義ではないが、逃れようのない事実として、肝炎の三つの変種A、B、Cはすべてアジアの国々に蔓延しているものであり、しかも、米国への移民はアジアからのものが大きな割合を占めているのだ。米国の大都会でホモセクシュアルが集まるコミュニティーも、肝炎三種すべての溜め池だ。
 C型肝炎は、HIV感染者から気づかれないことが非常に多い。理由は、単純に症状がHIVの症状とよく似ているためで、虚弱、発疹、各種の腺肥大、頭痛、一般的な不定愁訴などだ。このような症状の出ている期間にこそ、C型肝炎ウイルスはもっとも致命的な働きをする。ゆっくりと、だが確実に肝臓を破壊し、しかも止めようがない。そして、この時点がいちばん周囲に感染しやすい。
 

 米国では一九九二年まで、HVCで汚染された血液が全米各地の血液銀行で使われていた。一九九二年に輸血によって感染したのなら、体調がひどくなり始めるのは二〇〇二年だ。この恐ろしいウイルスが広まるもうひとつの道筋は、性交と、不潔な針を使っての麻薬使用だ。六月八日のベセズダ会議ではこの点が強調されたにもかかわらず、どれほど予防措置を講じても、すでにHVCに感染している者を救うことはできないという結論になった。

 国立衛生研究所 (NIH) で消化器病・栄養学部の部長を務める科学者、ジェイ・フーフナグルは、国際的な科学者および医療専門家の会議で、「これは罹病率と死亡率の点で重大な問題だ。かなりなことになり得るし、しかも、かなり早くに起こるだろう」 と語た。フーフナグルはただ分かりきったことを言っただけかもしれないが、仲間の注目を集めたのは確かだった。
 HVCに関するこの国際シンポジウムではこの病気の潜行性および、肝臓への攻撃がどのようにおこなわれるかについての発言が相次いだ。現在でも、このつかみどころのないウイルスがどこから来たのかについてはそれほど多くのことは分かっていない。この会議で唯一確認されたことは、HVCが蔓延していて、人類史上にも例がないほど危険な状態だということだ。これはHIVよりもはるかに危険だ。
 大製薬会社イーライ・リリーの副社長デール・キャセルも、感染病の発見と研究を指導する立場から、ベセズダ会議に出席していた。キャセルはこの問題について、「NIHの研究者にとって大変な試練であり、HIVで経験しているものをはるかに越える、技術的な困難がある」 と発言した。キャセルはまた、これまでのところ、このウイルスを研究室で実験的に培養したり、ラットやマウスに感染させたりすることは不可能だとも言った。

「このウイルスがどのようにして、その複雑な発
達段階を経ていくのか、まったく解き明かせていない」
 シンポジウムでは、どこから体内に入ったにせよHVCは常に一直線に肝臓にむかうことが報告型肝炎は段階が進むにつれて患者が衰弱していくので、多くの日和見疾患の恰好の標的となる。そのために米国でも数千人、インドその他のアジアの国々では数百万人単位で死亡している。これが黙示録といえる規模の、つぎなる疫病となるのは間違いないだろう。
 

C型肝炎は、人体に侵入してから最初の五年間は、特別な抗体および遺伝子試験でしか見つけられず、これには大変な費用がかかる。初期患者のほとんどはそれほど苦しまない。初期症状として発熱、頭痛、下痢などインフルエンザのような感じがあるが、それも徐々に引いていき、4-6週間で治まってしまう。C型肝炎に感染した初期段階の患者は、ほとんどが「かぜ気味だとか 「疲れすぎ」ということで済ませてしまう。肝臓が通常通りに機能しているように見えるため、C型肝炎の初期患者はほとんど医者に診せようなどとは思わない。やがて肝機能障害が起こるようになり、肝臓が収縮し、激しく損傷し、ついには死にいたる。
 この病気が根づいたのは一九六〇年代の「ヒッピー世代」だと考えられているが、他
に症状が顕れなかったのかについての説明はなされてはおらず、なぜそれ以前C型肝炎の症例数が急激に増加した理由は他に求めるべきだという見解も多い。

「これはウイルスが進化して開花するという、通常のケースではない」とは米国肝臓協会会長の意見だ。これまでのところ、CAB(化学・生物兵器)の関連施設をよく調べるということは誰も提案していない。

 カリフォニア州オレンジ郡で血液銀行の所長を務めるノラ・ヒルシュラー博士は最近、「繰り返しているとくどくなるのですが、今はこの病気について執拗に強調しなければならない状況なのです」と語っている。米国肝臓協会の医師らは、C型肝炎の進み方を以下のように要約している。
  「長いあいだC型肝炎は、進行が遅いというその性質のため、急を要する病気とはほとんど(あるいはまったく)考えられていなかった。だが、その恐るべき被害は非常に個別的で、しかも会のさまざまな階層に広がっている。エイズと違ってC型肝炎にかかってもただちに死の宣告とは考えられなかったのだが、すぐに、それまで健康だった若い肉体が単なる抜け殻に過ぎなくなってしまうこと、それもごく短い間にそうなるということが明らかになってきた。

六〇年代・七〇年代に自由奔放な行動をとった『フリー・ウィーラー』たちは今、C型肝炎のために非常な苦しみを受け始めている。しかも、本人たちも知らないうちに、当時またはそれ以降に接触した何百人という人たちをも感染させているかも知れない。
 ある意味ではC型肝炎はエイズよりも質が悪い。感染したときに、本当に病気になったことを示してくれるものがないからだ。だが、六〇年代・七〇年代にフリーセックスを楽しんでいたスウインガー』たちは現在、その相当数が死亡し始めている。同時に、以前に彼らから感染させられた人たちが、さらに大きな人数で後から続いている。つぎからつぎへと波が押し寄せてくるようだ。背筋が寒くなること、それはC型肝炎には治療法がないということだ」